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【革の話】トリヨンクレマンスという革を詳しく解説します

トリヨンクレマンスという革について詳しく解説

フィロソフィで取り扱っている革について解説していきたいと思います。


革についてググってみると間違った情報が普通に複数のサイトに書かれてたり、特にフィロソフィでメインで扱っているトリヨンクレマンスヴォー・エプソンなどの革は他のメーカー・ブランドでの取り扱いも少なく、あまり正確で具体的な情報が出てこないです。
本当にいい革なのでもっと広まってもいいように思います。

エルメスの革製品で使用されているレザーなので調べると質屋さんのサイトとかでよく出てくるんですが、革屋さんではなくあくまで質屋さんなのでそこまで正確でなかったり、、、QAサイトなどでは憶測で書かれているものも多々ありました。

そういう訳で、Philosophii でいちばん人気のレザー【トリヨンクレマンス】について書いていきます。


【トリヨンクレマンス(Taurillon Clemence)】

フランスの歴史あるタンナーRémy Carriat(レミーキャリアット)社が作るシュリンクレザー。レミーキャリアットは1927年創業で100年近い歴史を持ちます。

トリヨン(Tourillon)はフランス語で若い雄牛の意味です。
牛革はとても大きいので通常、半裁といって1頭の半分のサイズで鞣されることが多いですが、トリヨンクレマンスは全裁(1枚丸ごと)で鞣されています。そのため1枚の革は2m x 2m 以上のサイズがあります。
作り手としては大きすぎ&重すぎて正直扱いにくいですが、大きい家具などにも使えるというメリットがあります。でもバッグや財布を作る分には全く関係ないですね。。

このトリヨンクレマンス独特の特徴は、他のレザーには出せない柔らかさ、シボの美しさ、発色の良さです。
そしてその柔らかさゆえ、綺麗に仕立てるための独自の工夫も必要になってきます。

トリヨンクレマンスというフランス産レザーの特徴などを長々と書いてみます。

トリヨンクレマンスの柔らかい革質


✅フルグレインレザー

トリヨンクレマンスはフルグレインレザーです。
フルグレインレザーというのは、革の表面を加工せずそのまま鞣した革です。
革は天然素材ですので、生きているうちに傷や虫刺されの跡などが革の表面に残るのが一般的です。そのため鞣しの段階でバフがけなどで傷が目立たなくなる様な処理をします。
フルグレインレザーはそのような処理をしないため、血筋、トラ、傷などがそのまま残りますが革本来の表情を活かすことができます。また、革の組織で耐久性が最も高い表皮を削らないため、耐久性に優れています。
牛革は食肉の副産物ですが、ヨーロッパでは革として使用することを前提に、育成の段階からできるだけ傷が付かない様に配慮されています。
革のもとになる原皮自体が良くないと、よいフルグレインレザーにはなりません。

✅シュリンクレザー

トリヨンクレマンスは本シュリンクレザーです。
シボ(革表面の凹凸)のある革はシュリンクレザーと呼ばれますが、シュリンクレザーには本シュリンクと型押しシュリンクがあります。
本シュリンクは収縮剤を使って革を収縮させ、その結果革の表面がシボシボになってる革です。収縮によって革の面積が20%ほど小さくなると言われおり、そのため革自体が高価になります。
また、シボの出方は1枚1枚の原皮の状態に左右されるため個体差が大きいのはもちろん、1枚の革の中でも場所によってまったく表情が異なります。
そのため均一な製品を作ろうとすると極端に歩留まりが悪くなり、製品の価格が高価にならざるを得ません。

シュリンクレザーにもいろいろな革がありますが、トリヨンクレマンスが凄いのは原厚2.5mm程度の肉厚でありながら微細な美しいシボを表現する鞣しの高い技術と、驚くほどの柔らかさです。
本シュリンクは型押しシュリンクのように革をプレスしていないので一般的に柔らかめの仕上がりになりますが、それにしてもとにかく柔らかいです。

シュリンクレザーで有名なのはトゴ、ネゴンダ、シュランケンカーフなどがあります。これらの革は柔らかい中にも多少コシがありますが、トリヨンクレマンスはコシがなくくったりとした柔らかさNo.1です。(一概に柔らかい=良い革ということではありません。)

発色の良いトリヨンクレマンス


✅発色の美しさと色数の多さ

色味は好みの問題でもありますが、色々な革を使っているとやっぱり高級感のある仕上がりになる革質、色味というのがあります。
国内ではシュランケンカーフがわりと豊富なカラーで手に入りますが、個人的にはトリヨンクレマンスの色の出方が好みです。そしてカラーバリエーションも豊富です。Rémy Carriatのリストには50色以上のカラーがあります(が、在庫はないことが多々あります😅)Philosophii でこれまでに取り扱ったカラーは、取り扱い終了したものも含めると40色以上あります。発色の良さはフランスレザーの特徴です。

✅トリヨンクレマンスが向いてる革製品

トリヨンクレマンスのソフトで高級感のある革質が活きるのは内縫いのハンドバッグやお財布、ポーチなどです。
Philosophii ではレザーフラップ財布シリーズで多用しています。これも柔らかい革の魅力を引き出すための内縫いのデザインになっています。
外縫いのアイテムでは長く使っていくうちにカドがヨレたり型崩れする可能性があります。と言っても製作は可能ですので、その点をご説明した上でオーダー製作を受けることも多々あります。

✅耐久性

柔らかい革というと耐久性がないと思われることもありますが、そんなことはありません。
前回書いたように、トリヨンクレマンスは革の銀面をそのまま残したフルグレインレザーです。そして弾力性のあるシボのおかげで、傷に強く、傷が付いても目立ちにくいです。
革製品全般、水濡れは良くないですが比較的水濡れには強いです。吸水しにくく変色しにくい素材ですので、多少濡れてもすぐに拭き取っていただければ問題ないです。

柔らかい革の弱点は型崩れと伸びやすさです。
Philosophii では型崩れ、伸びを極力防ぐため、トリヨンクレマンスを使う場合には全てのパーツに薄い芯材や革の裏地を貼り合わせることで補強しています。
人気のレザーフラップ財布も表の革と裏面の革のあいだ全体に芯材を挟んでいます。ひと手間加えることで耐久性も、仕上がりの高級感も変わってきます。

✅重さが少しネック

革が柔らかいのでなんとなく軽いイメージがありますが、実際は他のレザーより若干重いです。
繊維の詰まっている革をシュリンク加工していますので、重いです。
非常に柔らかい革ですので、たとえば自立するバッグに仕立てようとすると革の厚みを持たせたり、芯材を使うことになりますので他の素材で作る場合より若干重くなります。
それでもPhilosophii ではトリヨンクレマンスのもっちりふかふか感を保ちながら最も軽く仕上がるように工夫をして仕立てていますので、他メーカー・ブランドが作るバッグよりはかなり軽量です。
実際にPhilosophii のバッグを手に取ったことのある方は実感されると思います。

✅トリヨンクレマンスの製品が出回ってないのはなぜ?

ひと昔前に比べると、日本で仕入れることのできるインポートレザーの種類はかなり豊富になっています。トリヨンクレマンスも普通に仕入れできます。(他社にない特別なルートを持ってる訳ではないですよ)

こんなに素晴らしい革なのにイマイチ普及してないのはいくつか理由がありそうです。

・価格の高さ
まずは革自体の価格の高さ。単価も高く、さらに全裁サイズ(牛1頭分)なので個人規模の工房で多カラー取り扱うのは難しいです。数枚仕入れるだけで軽くン十万円になります😅
そして歩留まりも悪いので製品価格が割高になります。
作る技術もさることながら、売る技術もないと作っても売れない、、、となります。ここに普及しない高い壁があります。
Philosophii はオーダーメイドなので高価な革でも使えますが、在庫販売では在庫を抱えるコストが大きくなりすぎてなかなか難しそうです。

・供給が安定しない
資金力のある大手メーカーなら製品化して販売できそうですが、特に最近は供給がまったく安定しないので在庫が切れると何ヶ月も革が入ってこない、、、となります。そして大手メーカーは在庫販売なので(オーダーメイドなんて効率の悪いことはやりません)、在庫を抱える高コストを負担することになります。

・加工に技術を要する
とにかく柔らかくて扱いにくいです。裁断、漉き加工、組み立て、縫製、コバ、、、すべてのプロセスで技術と注意を要します。仕上がりの美しさと耐久性を追求すると全てのパーツを補強するというひと手間(だけど時間は2倍かかる)が必要です。そしてコバの仕上げにもひと手間かかります。
同じシュリンクレザーでもトゴやシュランケンカーフは少しコシがあって、トリヨンクレマンスと比べるとかなり扱いやすいです。

✅それでもトリヨンクレマンスを使う理由

この柔らかい質感と美しいカラーは他のレザーで代替できない唯一無二のものです。この革の魅力を引き出す独自の仕立ての技術があります。
接客でもHPにもここまで詳しく蘊蓄の説明はしてないですが、素材のよさに魅力を感じてこのトリヨンクレマンスでオーダーをいただくお客様がたくさんいらっしゃいますのでやはり魅力的な革なんだと思います😊

ただ、コスト面を考えると全然利益が出ないんですよね〜🤣滝汗
お客様からのご要望がある限りはこのトリヨンクレマンスを使っていきたいと思います。

長話にお付き合いいただきありがとうございました。

 

Philosophii

土井